『妖怪人間ベム(2006年版)』
(Humanoid Monster Bem)


2006年/Digital beta-cam/Collar/4:3/Stereo
pilot-A:5min/pilot-B:20min/2006年オンエア版:20min×26本


Original story and Image:ADK
Director,Animator:Hiroshi Harada
Animation director:Takeru Yamazaki
Director of Photography:Satoshi Fujita


この企画は、2000年頃からアニメーション界の各社を回り続け、プロット
→没、プロット→没が繰り返されたという。オリジナルの旧作を尊重しよ
うという現場スタッフの意見と、商品として安心して売買・二次利用でき
るよう「少年ジャンプ」の人気漫画のような現代的・シャープ・スタイリ
ッシュで、という代理店との意見が、なかなか一致しなかったためときく。
私が担当したのは、2003年から2006年まで期間で、400枚に及ぶ多くのア
イデア、プロット、ストーリー、ボード、デザインなどを作った。150枚
ほどの企画やシノプシス、デザインがわずか15分で全て没になってしまっ
た事もある。無事放映に生かされたのは、その中のほんの3%ほどである。
2003年に私がmini-DVで作った5分のパイロットは、イメージボードを
撮影した上にビッチェズ・ブリューなどを入れた簡易的なものだった。
パイロット2期目のキャラクター・デザインは金澤比呂司氏であった。


 
 
 

*OPや本編など、随所に「墨流し」と呼ばれる方法を使った。
上の写真は、乾燥後の半紙(撮影前素材)。





 

 

昔ながらの生セル(アセテート・フィルム)にアニメ絵の具でタッチを付けたもの。
このセルをスキャナーで取り込み、デジタル・レイヤー化し、
本編のデジタルの動画に1枚1枚貼り付けた。
全ての枚数に手貼りする事で、生々しくどろどろした雰囲気が出る。
フィルム+セル時代、直接セルに1枚1枚筆でタッチを付けるのは通常の工程であった。
上のセルによるタッチは、1話クライマックスの波しぶきのUPなどに使用している。
最終回では上質紙にポスカラによる水彩風タッチを、
やはり、本編動画1枚1枚に手作業で貼り付けた。








Layout,key animation,Special effects:Hiroshi Harada
Color coordinate:Miharu Sakai


上の絵は工場の廃液。環境破壊を続ける人間社会の図。
12枚ほどのリピートで構成されている。
すべてアナログでタッチを付けて、デジタルのセルに
貼り付けるのは、スケジュール的に不可能である。
なので、PC上で1枚1枚特殊ペイントをしてゆくしかない。
ただし、有り物のテクスチャーコピーやワンタッチのボカシ
ツールなどを使用してしまうと、おどろおどろしさが出ない。
あくまで1枚1枚描きこんで行く方が画面に緊張感が出る。
































Layout,key animation,Assistant animation,Special effects:Hiroshi Harada
Color coordinate:Miharu Sakai


上記の絵(素材)は、第一話の冒頭、海が「十戒」のように大きく割れ、
巨大な石像が姿を現すカットの「手前の波部分」の一部である。
飛沫が左右上空に大きく舞っているのは石像の風圧によるもの。
全部で50枚ぐらいの絵や素材で構成されている。
このカットには、フィルム・セル時代の「東映動画」が多用していた
「波タッチ」の手法をデジタルで再現した。

「東映動画」は、戦後初の長編カラーアニメーション映画
「白蛇伝」を作り、日本の商業アニメーション界に大きな影響を与えた。
「波タッチ」とは、ゼロックス(性能の良いトレスマシンのようなもの)と、
ペイントを終えたセルに、特殊効果担当者が、肉筆で波しぶきを描き加え、
水で分離させた絵の具を表面に薄塗り、さらに金網ブラシ等で
スパッタリング処理を1枚1枚行なう手法。

完成すれば、人力ならではの重量感と、人間の根気や汗、手間、
すべての労苦が画面内で一体となり、観る者に迫ってくる。

波や水、炎など自然現象等のアニメートに関しても、
初期の東映動画のテクニックは秀逸で、今も見習うべき点が多い。
東映動画の波は、原画も然る事ながら、動画の人がさらに巧みに
動かしたとの事で、動画の重要性を再認識させられる。

上の写真は小さいので見えないが、実際には金網ブラシが吹かれている。
この作品では他にも数々の実験を試みた。
スケジュールや予算が少なかったので、個人製作作品の素材を
たびたび流用したり、動画1枚1枚にタッチを付けたりして
画面に変化を付けていった。
それらはすべてボランティア(ノーギャラ)で、時間外による作業である。

なお、上記のカットでは、画面のどこかに
「ヴォルテールの見えない胸像」や、ホルバインの「大使たち」のような
見えないはずのイメージが、注意すると見える仕掛けになっている。
これら無言の視聴者への問いかけは、随所に散りばめられている。


Opening movie  http://www.world-art.ru/

Acetate film and Paper marbling:(c)2006 Hiroshi Harada
Layer material:(c)2006 ADK,Youkai Ningen Bem project


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